くまーるブログ

あやしうこそものぐるほしけれ。

漢字の書き順(筆順)について

 漢字について教えることって山ほどありますが、そのような中で「何を教えるか」というのは大事なことだと思います。「限られた時間の中で、何を、どう教えるか」ということは皆さんもいつも考えていらっしゃることでしょう。

 さてそのような中で私の中ではあまり時間をかけなくていいものが「書き順(筆順)について」ではないかと思っています。(以下「書き順」と呼びます)

 確かに書き順は大事だと思っています。しかし歴史的な経緯を見ていると、「書き順ってそれほど大事なのかな?」って思うんです。そういう観点から、私は「書き順について知っておいた方がいいこと」というのを、養成講座の授業では何点か指摘しています。

 今日はそれについてまとめてみました。これを機に、養成講座のプリントをもとに加筆をし、ブログにまとめてみました。
 
 私が養成講座で述べていることは次の①~④のことです。

①「絶対的に正しい書き順というのが存在するわけではない」ということ

 書き順って、「この順番で書かなければならない」っていうことを思っている人が多いので、大多数が思っているのと違う書き方をすると「それは間違っている!」と正したくなるという方もいらっしゃるんじゃないかともいますが、実は、書き順には「間違っている」という指摘はしにくいものがあるのです。

 1958年に発表された「筆順指導の手びき」というものがあります。「この順番で書かなければならない」と思っている方の根拠にもなりうるものです。

 

1.本書に取りあげた筆順は、学習指導上の観点から、一つの文字については一つの形に統一されているが、このことは本書に掲げられた以外の筆順で、従来行われてきたものを誤りとするものではない。
 —「筆順指導の手びき」(1958年(昭和33年))p.26「5.本書使用上の留意点」より

 

 これを読むと、書き順というのは「1つしかない」とは言えないと思います。


②同じ漢字圏でも、中国と日本で書き順が違う漢字があること

 

 日中で書き順が違うもの、結構あります。例は、コラボラーニングセンター「上海の中国語学校では教えない「日本語と中国語で書き順(筆順)が違う漢字」」をご覧ください。

www.collabo-china.com

 代表例として、「王」「方」「田」「右」「必」「有」「耳」が挙がっています。

※「方」の書き順は、Wikipediaによると、1997年以降は日本と同じになったとあります。

ja.wikipedia.org

 なお、Wikipediaには台湾での書き順のことも一部言及されています。


③同じ「牛」なのに、「牛(うし)」と「牜(うしへん)」で書き順が違うこと

 

 これは、以下の画像を見ていたければお分かりいただけるかと。

f:id:nkuma2490:20210606175327p:plain

「牛(うし)」 「牜(うしへん)」
 縦棒は4画目   縦棒は3画目


④楷書・行書・草書で書き順が変わること

 

 草書は省きますが、楷書と行書で書き順が変わること、結構あります。

 以下のサイトに、「無」「書」「草」「取」の例が書かれています。

 

 東京書道教育会「ゆかいな筆順2」

www.syodou.net

 

先ほど取り上げた「筆順指導のてびき」(26ページ)にも、「上」「点」「店」の書き順が行書になると変わることが言及されています。

f:id:nkuma2490:20210606175648p:plain

 

 
 以上、①~④について、私は養成講座で述べるようにしています。
 そして「みなさん、書き順って何なのでしょうね?」と問いかけて締めています。
(時間があれば、話し合って意見交換をするのがいいのでしょうけど・・・💦)

 

 

 さて。

 書き順がどうして存在するのかについては、諸説あると思います。
 一番よく聞く理由は、「バランス・見た目がいいから」でしょうか。
 確かに、そう思います。

 では、書き順が変わる(一定しない、いろいろある)理由は何でしょうか?

 私は単に「運筆」にあるんじゃないかなと思うのです。

 

 以前、書道をたしなまれている受講生さんがとある漢字(すいません、忘れちゃいました…)を例に挙げて「だって、この書き順のほうが筆が動かしやすいだもん」とおっしゃっていたのを覚えています。1人だけの意見で総合化するのはおかしいかもしれませんが、私もそんな気がしています。楷書・行書・草書で書き順が変わるなんて、運筆以外に理由が思い浮かびません。

 

先ほどの“東京書道教育会「ゆかいな筆順2」”では、

 

 「筆順が変わる理由」を端的に言えば、目指す字のカタチが違うからです。

 

と書かれてありました。きっとこれも運筆につながってるのだろうと思います。
 「崩す」ために運筆を変える、そのために、書き順が変わるんじゃないかと思っています。

 

 日中の書き順の違いについては、「しゃんはいさくらのの上海あれこれ」によると、

 

 中国では横書きするので左→右の動きを重視するそうです。

 

とありました。

ameblo.jp

 これも、「左から右に横に書く」という性格上、運筆も左から順番に行う方が理にかなっています。
 それが端的に表れているのが中国での「必」の書き順だと思います。

 左から右に書いているんですよね。

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 そして、最後に。

 

 「じゃあ、書き順なんて適当でいいのか?」という意見も現れることでしょう。
 それに対して私が思うのは、

 

 まずは「2つの大原則」は守るべきで、

 その次の「8つの原則」は守ったほうがいい。

 

ということです。

 「2つの大原則」と「8つの原則」については、Wikipediaをご覧ください。

  筆順 - Wikipedia

 

 以前「山」っていう字の縦線を全部下から上に書いた学習者を見たときは、さすがに「上から下に書こうか」と言いました・・・。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。