「オノマトペにも方言があるんじゃないか」
そんなことを今まで、漠然と思っていました。
先日、「#愛知あたりまえ」というハッシュタグに便乗して、
「信号がパカパカ」
というツイートをしてみました。
信号がパカパカ
— Kumar(西隈俊哉) (@route2490) 2021年9月12日
#愛知あたりまえ pic.twitter.com/hNaA1GCBRw
リプライをしてくださった方がいらっしゃて、それを見て「この地域の方言オノマトペにはどんなものがあるのだろう?」という気になり、ちょっと調べてみることにしました。
(ただし、いずれもネットで調べたものです。なお、私自身は名古屋弁や尾張方言のネイティブではありません)
===ここから論文口調===
まず挙がったのが
①「しゃびしゃび」
と
②「ぱーぱー」
だった。
①については篠崎(2011)が「水っぽい」という意味で紹介している。
カレーやシチューについて主に用い、とろみが少なく流動性が高い様子のことを指すのだろう。(私はネイティブじゃないので、「だろう」としておく)
なお、篠崎(2011)によると、
(「しゃびしゃび」には)ややマイナスのイメージが含まれているようで、共通語の「さらさら」とはちょっとニュアンスが異なるようだ。
とも述べているので注意が必要である。
それと、“花のや”ホームページによると、かき氷にも使われるらしい。氷が溶け始めて水分が増してきた状態のことを指すようだ。
②の「ぱーぱー」については今年の5月にTwitterでトレンド入りしたので、私の記憶にもある。
窓に使い「開けっ放し」の意味で、窓以外にはドアにも使うようだ。
そして次は、③「信号がパカパカ」である。これも篠崎(2010)が取り上げている。
点滅を表す言葉であり、共通語では“チカチカ”なのだろうか。
なお篠崎(2010)によると、「使えなくなる直前の蛍光灯、車のハザードランプ、留守番電話の着信ランプ、カメラのストロボ、停電時のビデオの時計表示…」も“パカパカ”を使う例として取り上げている。
次に取り上げるのは、④「ぱんぱん」である。
これは満腹時のお腹の様子を表すそうだ。これを方言として取り上げている文献は少なく、山田(2007)ぐらいである。
http://www.ed.gifu-u.ac.jp/info/zinbun/pdf/560102.pdf
そのため、もしかしたら共通語でも使うオノマトペであるかもしれない。
次に取り上げるのは、
⑤「ときとき」
と
⑥「ちんちん」
である。
⑤については、鉛筆に主に用い、「とがった状態」を指す。
これには変種(バリエーション)があり、
朝日(2019)に写真入りで取り上げられている。
どんな写真かというと、「とがった鉛筆」の写真なのである。
朝日(2019)では写真を示して、“「鉛筆をこのようにすることをどうすると言いますか」という問いに対して、「トキントキンにする」と言いますが…”と述べている。
そして、⑥の「ちんちん」である。こちらは主にヤカンやお湯に用い、「非常に熱い」ということを表す。これはgoo辞書にも登録されていた。
さて、この⑤「ときとき」と⑥「ちんちん」に共通しているのは、変種(バリエーション)があることである。
⑤「ときとき」には「ときんときん」「とっきんとっきん」という変種が、
⑥「ちんちん」には「ちんちこちん」という変種がある。
変種については、これだけではなかった。
篠崎(2011)によると「しゃびしゃび」には「しゃびんしゃびん」もあるそうである。
さらには、④「ぱんぱん」は地域によっては「ぽんぽん」になることが山田(2007)で指摘されている。
そしてLINEスタンプの「しゃちぴよの名古屋弁オノマトペ!」を見ると、「お腹ぽんぽん」「ちんちこちん」「とっきんとっきん」が、そして「ぱーぱー」に対して「ぱーぱかぱー」も載っていた。
なお、今回取り上げたものをまとめると以下のようになる。
≪まとめ≫
①「しゃびしゃび」 別形「しゃびんしゃびん」
⇒カレー・シチュー
②「ぱーぱー」 別形「ぱーぱかぱー」
⇒窓・ドア
③「パカパカ」
⇒信号機
④「ぱんぱん」 別形「ぽんぽん」
⇒満腹
⑤「ときとき」 別形「ときんときん」「とっきんとっきん」
⇒鉛筆
⑥「ちんちん」 別形「ちんちこちん」
⇒ヤカン・お湯
===ここまで論文口調===
いやぁ。それにしても方言オノマトペ、調べてみると面白いものです。
私の住んでいる愛知県の地域でもまだほかにもあるかもしれないですし、皆さんのお住まいの地域でも方言オノマトペがあるかもしれません。
方言オノマトペを主たる研究対象にしている学者さんはいるのでしょうか?
篠崎晃一先生や山田敏弘先生がそうかな、と思いますが、いちおう他の領域に主たる研究分野がおありですし…。
ということで、方言オノマトペを主たる研究対象にしている学者さん1人ぐらいいてもいいな、と思います。社会言語学の観点からしても、大事な研究だと思います…。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【今回のブログを書くために参考にした文献】
篠崎晃一(2011)「WEB日本語 共通語な方言 第27回 水っぽさを表す方言」
https://www.web-nihongo.com/k_hougen/kh_p027/
(2021年9月20日閲覧)
“花のや”ホームページ
「オノマトペの不思議 ~なんとなく伝わる魔法の言葉~」
https://www.hanano-ya.jp/blog/lifehack/6271
(2021年9月20日閲覧)
“ツイ速クオリティ パーパー”
https://rubese.net/twisoq001/index_trend.php?id=157056
(2021年9月19日閲覧)
篠崎晃一(2010)「WEB日本語 共通語な方言 第10回 信号が“パカパカ”する?」
https://www.web-nihongo.com/k_hougen/kh_p010/
(2021年9月20日閲覧)
朝日祥之(2019)「標準語のようで標準語ではない愛知県のことば」
https://aichiu.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=9750&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
(2021年9月20日閲覧)
山田敏弘(2007)「岐阜・愛知の若年層方言について1―遊びのことば・学校のことば・オノマトペ―」
http://www.ed.gifu-u.ac.jp/info/zinbun/pdf/560102.pdf
(2021年9月20日閲覧)
“しゃちぴよの名古屋弁オノマトペ”
https://store.line.me/stickershop/product/1248276/ja
(2021年9月20日閲覧)